調理科学

肉の脂の融点と料理への影響

肉の脂っておいしいですよね。あまくて滑らか、コクを感じさせることもできます。でも、冷えて固まってしまうと食感も悪くなり、脂っこさも気になっておいしく感じなってしまう。

脂の状態のコントロールは料理において大事な要因のひとつと言えます。

今回は肉の脂がどれくらいの温度で溶けるのかを調べ、料理をする際にどのようなことに気を付けるべきかを考えてみましょう。

肉の脂の融点

まずは、肉の脂がどれくらいの温度で溶けるのかを見ていきたいと思います。

融点は動物によって異なる

肉の脂が溶ける温度(融点)は、動物の種類によって異なっています。

実生活に照らし合わせてみてみましょう。例えば、ラーメンのスープ。とんこつラーメンと鶏ガラのラーメンを比べたら、とんこつラーメンってなんだか脂が固まりやすいイメージはないですか?(冷めたラーメンは食べないよ!というのはちょっと置いておいて…。)

実は、これには肉の脂の融点の差が関係しています。鶏の脂のほうが溶ける温度が低く、豚の脂のほうが高いので、とんこつラーメンのほうが脂が白く固まって浮いてくるのに遭遇しやすいというわけです。

融点の差

以下の表に各動物の種類ごとの融点をまとめます[1]。脂の融点に幅があるのは、肉の部位によっても溶け方が異なるからです。

また、動物の種類の中でも品種によって異なることもあります。例えば、和牛はほかの品種と比べると融点がやや低いことが知られています。ですので、以下は目安として捉えるのが良さそうです。

各動物の種類毎の脂の融点
動物の種類脂の融点
44℃~55℃
40℃~50℃
33℃~46℃
30℃~43℃
30℃~32℃

こうしてみると羊と牛は融点が高めですね。鶏は30℃付近で低め、豚と馬がその中間。動物の種類によっては20℃近く差があることになります。

特に羊と牛は人間の体温よりも融点が高いので、人肌では溶けてきません。逆に、豚や鶏は30℃台でも溶け始めます。

融点に気をつけて料理をする

前述の通り、動物の種類によっては、人肌で溶けたり溶けなかったりするので、このあたりは調理時や食事の提供時の温度にも影響しそうです。

調理時の具材の温度

豚や鶏は30℃台でも脂が溶けはじめるということがわかりましたが、まず気にしなければならないのが調理時の具材の温度です。

例えば、肉を手で触って下ごしらえをする段階で脂が溶けだすと料理のおいしさに影響がでてきます。ハンバーグや鶏団子の調理ではタネを作る際に手で挽肉をこねますが、この際に手で肉に触れる時間が長かったりすると、肉の脂が溶けだしてタネがだれてきてしまいます。

こういった状況を回避するために、手を冷やしてなるべく融点よりも低い温度で混ぜたり、タネ自体を冷やすなどの工夫が必要になるわけです。

料理の提供時の温度

次に気にする必要があるのが、料理の提供時の温度です。

今度は牛の脂について着目してみましょう。上述の通り、牛は融点が40℃以上と比較的高めで、人間の体温では溶けてきません。

つまり、食べるときに脂が溶けた状態にしておかないと、脂のなめらかさやまろやかさを得ることができません。肉が冷めて融点を下回ってしまうと脂が固まりはじめ、舌触りがどんどん悪くなってしまいます。

牛のステーキがアツアツの状態で提供されてくるのにはこういう事情もあるんですね。

逆に鶏のから揚げ等が少し冷めても食感が悪くなりにくいのは、このような脂の性質によるところがありそうです。こうして考えてみると、飲み会の席で鶏のから揚げがメニューとしてよく見かけるのも合理的な感じがしてきます。

参考文献

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