調理科学

きゅうりの「板ずり」は必要か?

きゅうりを扱う料理でよく行われる下準備として「きゅうりの板ずり」があります。料理本ではきゅうりの調理が出てくるとよく「板ずり」の工程が出てきますよね。

私も特に何の疑いもなしに「板ずり」をしてきたわけですが、実際は本当に効果があるのかあまり気にしていませんでした。今回は「板ずり」が何に効果があるのかを見ていきたいと思います。

板ずりによる効果

きゅうりを塩で板ずりすることで一般的に以下のような効果が期待されています。

  • 皮が柔らかくなり、イボが取れて滑らかになる
  • 表面の色が鮮やかになる
  • アクが抜ける
  • 青臭さが抜ける

板ずりは本当に効果があるか?

これらが本当に効果があるものなのか、それぞれ素材の性質や調理科学の分野で判明していることと照らし合わせて見ていきたいと思います。

○:皮が柔らかくなり、イボが取れて滑らかになる

一つ目は板ずりにより「皮が柔らかくなる」という効果。

板ずりをすることできゅうりの表皮組織が壊れ、ここに塩の作用が加わることで、きゅうり中の水分が浸透圧で引き出されます。

この浸透圧の作用で外皮に水分が移動することで皮が柔らかくなります。

あと、イボについては歴然ですね。物理的にきゅうりのイボ部分を擦って壊すので、皮の表面が滑らかになり口当たりがよくなります。

○:表面の色が鮮やかになる

二つ目は板ずりにより「色が鮮やかになる」という効果。

上でも触れている通り、板ずりをすることできゅうりの表皮組織が壊れ、ここに塩の作用が加わることで、きゅうり中の水分が浸透圧で引き出されます。

この際に、野菜の緑色の色素成分である葉緑素(クロロフィル)も表出し、鮮やかに見えるようになると考えられます[1]。また、塩の効果で色味が安定したことも鮮やかに感じられる一因と考えられます[5]。

○:アクが抜ける

三つ目は板ずりにより「アクが抜ける」という効果。

きゅうりにアク?とちょっと意外に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

きゅうりには渋みを感じさせるアクが含まれています。このアクはギ酸という成分が主体となっていて、きゅうりの皮の下にある維管束に集中しています。

板ずりをすることで、きゅうりの皮の下の維管束の細胞を壊し、そこに含まれているギ酸を絞りだすことができるので、渋みが軽減できるというわけです [2]。ギ酸はきゅうり全体に含まれているのではなく、ほとんどが維管束に集中しているのでこの部分だけ対応してあげれば効果があります。

ちなみに、ギ酸はきゅうりを切断した際に断面に出てきますがしばらく置いておくと固化し渋味が無くなるので、板ずりによる効果は切りたてのきゅうりを使う時により感じられるようになります。

板ずり以外にきゅうりのギ酸を取り除くためには、「ヘタと実の切り口をこする」という方法もあります [3]。

△:青臭さが抜ける

最後は「青臭さがぬける」という効果。

仕組みとしては「塩の浸透圧で水分を抜く際に青臭さも抜ける」というものですが、そもそもきゅうりの青臭さのもとは何なのでしょうか?まずはそこから整理します。

きゅうりの青臭さは主に「 (E)-2,(Z)-6‒ノナジエナール」「 (E)-2,(Z)-6‒ノナジエノール」などの香気成分によるものです。前者はまさに「きゅうりの香り」、後者は「新鮮な葉、メロンの香り」または「クサガメ、ナマコの香り」とも言われています。その他にも様々な香気成分が含まれていて、これらが複雑に混ざることできゅうり独特の臭いとなるわけです。これらの青臭さの香気成分はきゅうりの組織が破壊されると酵素の働きによって生成されます[4]。

 

さて、青臭さの原因がわかったところで「塩の浸透圧で水分を抜く際に青臭さも抜ける」という仕組みについて焦点を当てていきます。

結論から言うと、「きゅうりと塩を合わせて刺激する」こと自体については、青臭さが軽減される可能性はあります。例えば、きゅうりは「塩もみ」をすることで独特の臭いがマイルドになると言われています。これは塩と合わせて揉みこむことできゅうりの組織が破壊され、これにより酵素が組成変化を促進するためと考えられています [5]。

しかし「板ずり」単体による香気成分の変化ついては文献等が見当たらず、この操作がどの程度効果があるのかはわかりませんでした。

 

ここからは私見ですが、板ずりはあくまでも表面の組織に対しての操作になるので、塩もみほどの効果はないのでは?と考えます。また、組織が破壊されることできゅうりの青臭い香りの成分を生成してしまうので、下手をすると逆効果になっている可能性も考えられます。

なお、青臭さへの対応案としてはお湯で茹でるなど、軽く加熱することが挙げられます。前述の通り、きゅうりの香気成分は酵素の働きによって生成されるので、組織を破壊する前に加熱して失活させれば香気成分は生成されなくなります。また、熱湯により表面が殺菌されるので、食中毒のリスクを低減することができます。

きゅうりの「板ずり」は必要か?

一般的に主張されている「きゅうりの板ずり」の効果は本当にあるのかを見てきました。

概ね効果があると考えられるものは以下の通りです。

  • 皮が柔らかくなり、イボが取れて滑らかになる
  • 表面の色が鮮やかになる
  • アクが抜ける

一方、効果が不明なのものは以下の通りです。

  • 青臭さが抜ける

他の青臭さを抜く方法としては、軽く茹でるのが良さそうです。

食感や見た目、アク(渋み)を抜くという観点から見れば、板ずりは有効な調理方法であるとわかりました。ただし、これらを重視しない、または、その効果が料理として不必要なのであれば、必ずしも必要ではないのではないかと考えます。料理に合わせて調理工程に含めるか判断しましょう、というのが結論です。

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