お菓子をつくっていると避けては通れないメレンゲづくり。今回は卵白の攪拌とメレンゲの状態の関係についてまとめたいと思います。
卵白の攪拌でメレンゲはどう変化する?
卵白をホイッパーやハンドミキサー等で泡立てるとすぐに泡立ち始め、数分これを続けていくと白い泡の塊ができあがります。この状態を「メレンゲ」と呼びます(砂糖を加えて泡立てた卵白やこれを使った菓子のことを指すこともあります)。
卵白の攪拌(かき混ぜること)時の変化についてまとめると、以下のような三段階の状態変化を経ていることがわかります。
- 泡立っているが液に戻りやすい状態
- 泡立ちが消えずに固まっている状態(きれいなメレンゲ)
- 泡が消えて水が分離した状態(ボソボソしたメレンゲ)
できれば料理に使うメレンゲは2番のようなきれいなメレンゲを使いたいところですね。なるべく3番のような状態にならないように泡立てたいです。
ここではメレンゲができる原理をもう少し詳しく、「卵白の泡立ち」、「泡立ちの安定」、「攪拌しすぎたときの現象」それぞれについて紐解くことで理解していきたいと思います。
卵白が泡立つのはなぜ?
まず、気になるのが「卵白の泡立ち」の仕組みです。
卵白が泡立つ理由は、卵白中のたんぱく質(主に、グロブリンとオボトランスフェリン)が界面活性物質として作用するからです。
これらのたんぱく質は攪拌により構造が崩れて変性し、空気と水の境界面に集まってきて膜のようになります。また、攪拌によってこの膜の中に空気が入るので、泡ができるというわけです。この状態でたくさんかき混ぜると、どんどん泡が小さくなってメレンゲの細かい泡になっていきます。
これは、シャボン玉の構造と原理に似ています。シャボン玉は洗剤等の界面活性剤を水と混ぜることで表面張力を低くし、空気と空気の間に水の膜を作って風船上に膨らませます。シャボン液を指を開いた手でバシャバシャかき混ぜると良く泡立ちますが、卵白でもそれと同じようなことが起こっていると考えるとイメージしやすいかもしれません。
泡立った卵白が固まるのはなぜ?
次に確認しておきたいのが「泡立ちの安定」。
泡立った卵白が固まってメレンゲのような泡の形が持続するのも、卵白に含まれるたんぱく質の作用によるものです。この泡の持続状態のことを「安定」と呼ぶことにします。
卵白の攪拌により、卵白中のたんぱく質は構造が崩れていきますが、これによりたんぱく質同士がお互いに結合しやすくなります。これが接着剤のような役割を果たすことで膜の部分が強化され、結果的に泡の状態が安定するというわけです。
シャボン玉をつくるときに、砂糖や洗濯のりなどを加えることでシャボン液の粘性を上げて割れにくくすることがありますが、膜の強度をほどよく上げると泡が安定するのは似ていますね。
攪拌しすぎると泡立ちが消えるのはなぜ?
最後は、「攪拌しすぎたときの現象」についてです。
メレンゲ状態が安定してきたところで、更に泡立てていくとなぜか泡立ちが消えてボソボソしたメレンゲになったり、水分が分離してしまったりします。なぜこうなるのでしょうか?
攪拌しすぎて泡立ちが消えてしまうのは、攪拌によってたんぱく質が更に壊されて変性し、たんぱく質同士が強く結合してしまったからです。
たんぱく質同士の結合が強まると、膜として成立していた部分から水が絞り出されます。そうすると膜のに保持されていた水が少なくなって弾力が失われ、泡がボソボソしたり壊れてしまいます。
このような原理によって、泡が消えたり、水分の少ない泡が増え、絞り出された水分が集まって分離した状態になるわけです。
きれいなメレンゲをつくるには?
これまで見てきたように、卵白は攪拌することによってたんぱく質が変性して泡が作りやすく安定しやすい状態になります。この状態が続いている状態が「きれいなメレンゲ」の状態です。しかし、攪拌しすぎるとたんぱく質同士の結合が強まってしまい、水分が分離して「ボソボソしたメレンゲ」になってしまいます。
したがって、「きれいなメレンゲ」をつくるには以下のことを守る必要があります。
- 丁度良いタイミングでかき混ぜるのをやめる
- かき混ぜすぎてもたんぱく質同士の結合が強まらないようにする
1番目については、ある程度見た目などで判断はできますが、根本的には技術でカバーするしかありません。何度もメレンゲづくりをして、かき混ぜるのをやめるベストなタイミングをつかむ必要があります。
2番目については、調味料を加えて泡立てるという方法が実用的です。また、銅製のボウルに入れて泡立てると安定しやすいという研究報告もあります。いろいろなやり方がありますので、具体的な方法については別の機会にまとめたいと思います。
参考文献
[1] : マギーキッチンサイエンス Harold McGee p.98-104
[2] : 泡立て卵白の品質に及ぼす銅イオンの影響 下藤 悟ほか
[3] : 石けんでなぜ泡(シャボン玉)ができるのか? 牛乳石鹸