料理の科学

野菜に含まれるペクチンと煮崩れの関係

家庭料理の定番と言えば煮物。肉じゃがやかぼちゃの煮物、里芋の煮物など、食べるとほっこりする料理が多いですね。

今回はそんな野菜の煮崩れと野菜の細胞壁のなかにあるペクチンについてのお話です。

誰もが経験する野菜の煮崩れ

皆さん、野菜の煮物って作りますか?我が家では和食中心のメニューが多いので、それなりに作ることが多いです。

煮物は他の調理と比べて一気につくり置きできたりして便利なので、比較的皆さんもつくることの多いメニューではないでしょうか。

そんな煮物の失敗としてよくあるのが「野菜の煮崩れ」です。『肉じゃがを作っていたらじゃがいもが溶けてなくなってしまった』、『かぼちゃの煮物を箸でつかもうとしたら崩れてしまった』という経験をされたことがある方も多いはず。

今回は野菜の変化を野菜の細胞を支える「ペクチン」と「加熱調理(特に煮る調理)」の側面から調査したことを整理しまとめたいと思います。

野菜とペクチンの関係

ペクチン(ペクチン質)は植物の細胞壁などに含まれる多糖類です。野菜や果物の細胞壁はこのペクチンをたくさん含んでいます。

ペクチンは細胞と細胞の接着剤の役割を果たしているので、野菜を形づくる骨組みのようなものとも考えられます。野菜がしっかりした形を保っていられるのはペクチンのおかげなんですね。

ということは、このペクチンをコントロールできれば、野菜の柔らかさをある程度はコントロールできるのでは?という話になります。

ペクチンの分解

ペクチンには、加熱すると分解するという性質があります。経験的になんとなくわかると思いますが、野菜を煮ると柔らかくなりますよね。これは熱により細胞自体が壊れたり、これにともなう化学反応によりペクチンが分解されて細胞の軟化を進めるためです。

さて、ペクチンの分解には種類があります。主に「加水分解」と「トランスエリミネーション(β- 脱離)」の2種類です。それぞれの現象の発生条件をざっくりまとめると以下のようになります。

ポイント

  • 酸性下で加熱すると加水分解する。
  • 中性・アルカリ性下で加熱すると分解する。この現象をトランスエリミネーション(β- 脱離)という。

「加水分解」は高校化学の範囲ですので覚えている方も多いと思います。一方で「トランスエリミネーション」というのはあまり耳なじみがないですね。

酸性化で起こる加水分解は、他の多糖類にもみられる加水分解と同じですが、中性・アルカリ性下で起こるトランスエリミネーション(β- 脱離)はペクチン特有の現象です。

液性による分解されやすさの違い

ペクチンは特定の液性(酸性・アルカリ性)のもとで加熱することで分解しますが、分解しにくい液性があるということも分かっています。pHによる違いで分解の発生条件を詳細にすると以下のようになります。

ポイント

  • pH3以下(酸性)で加水分解が起こる
  • pH4(弱酸性)では加水分解もβ- 脱離も起きにくい
  • pH5(弱酸性~アルカリ性)以上でβ- 脱離が起こる

pHの表記は、中性のpH7を中心に、数字が小さくなるほど酸性が強くなり、数字が大きくなるほどアルカリ性が強くなります。

一般的に煮物調理というと、お湯やだし汁などで野菜を煮るという調理が多いかなと思いますが、このとき柔らかくなるのは、主に「β- 脱離」という現象によるものと考えられます。

調味液の液性にかかわる調理テクニック

これを一般的な料理のテクニックと照らし合わせてみると、何となく経験的にも分かりやすくなると思います。

ポイント

  • 煮豆:重曹を入れると柔らかくなる
    • アルカリ性によりペクチンの分解を促す。
  • 酢レンコン・酢ゴボウ:食感を良くするために酢水で煮る
    • 加水分解もβ- 脱離も起きくい状態にする

今まで「なんで煮豆って重曹をいれると柔らかくなるのかな?」と思っていましたが、こうして経験と照らし合わせてみると「なるほどな」という感じですね。

ペクチンの状態による分解されやすさの違い

いままではペクチンをひとまとめにしてみてきましたが、もう少し深堀してみていくことにします。というのも、ペクチンは状態によっていくつかの種類に分類されていて、その種類によって分解の進み方などが異なるからです。

もう少し具体的な話をしていきましょう。ペクチンは「エステル化度」という尺度で分類され、この度合いにより分解されやすさが異なることが分かっています。ここで登場した「エステル化度」とは、ペクチンの主成分「ガラクツロン酸」がどれくらいメチルエステル化しているか、その割合を示すものです。

ちなみに、一般的にエステル化度の違いにより、以下のように呼び方が変わります。

ポイント

  • エステル化度50%以上のペクチン:「HMペクチン(高メトリキシルペクチン)
  • エステル化度50%未満のペクチン:「LMペクチン(低メトリキシルペクチン)

ペクチンはこのエステル化度が高いほどβ- 脱離が起きやすく、低いほどβ- 脱離が起きにくくなります

例えば、じゃがいも等の煮崩れしやすい野菜は「HMペクチン」の割合が高く、長時間にないと柔らかくならない大根等は「LMペクチン」の割合が多いことが分かっています。

このように、野菜の種類と煮えやすさ、ペクチンの種類に着目すると、含まれているペクチンのエステル化度の違いが関係しているように見えます。

ペクチンメチルエステラーゼと野菜の硬さ

野菜の軟化・硬化はペクチンの性質によるところがあるとわかりましたが、実際にはペクチン自体の性質以外にも外的要因による作用があります。代表的なものが酵素の働きです。

野菜の硬さに影響する酵素のひとつがペクチンメチルエステラーゼ(PME)という酵素。このペクチンメチルエステラーゼは、ペクチンのメチルエステル基を脱メチル化する酵素です。

この酵素は野菜を煮たときにペクチンに作用し、結果的に野菜が硬化することがわかっています。具体的には以下のようなことが野菜の中で起こります。

ポイント

  • 野菜の細胞の電解質との作用でペクチンのゲル化が強くなる。(ペクチンの接着剤としての機能が強くなる)
  • ペクチンが低エステル化度になり、β- 脱離が起きにくくなる。(ペクチンの加熱による分解がおきにくくなる)

もともとペクチンメチルエステラーゼはペクチンの一部を分解する酵素なのですが、煮物調理ではこの酵素の作用によって逆に野菜が硬くなるというのはおもしろいですね。

温度による変化

さて、野菜の加熱時にこの酵素が働けば固くすることができ、逆にこの酵素を働かなければ加熱による軟化が進みやすい状態にすることができると考えられます。

ではどのようにコントロールするかという話になりますが、加熱途中の野菜の「温度」で酵素の働きをコントロールすることができそうです。

ペクチンメチルエステラーゼは野菜の温度変化で以下のようなサイクルで活性化・不活性化することがわかっています。

ポイント

  • 50℃以下ではペクチンメチルエステラーゼは不活性。
  • 50~70℃付近で野菜の細胞壁が壊れて、出てきた電解質と反応し活性化。
  • 80℃以上では酵素の大部分が破壊されて機能を失う。

つまり、50~70℃でペクチンメチルエステラーゼを活性化した状態が一定時間続けば、野菜を硬くすることができ、逆に高い温度のお湯で煮てこの温度帯を一気に通過させれば、酵素が活性化せず野菜を柔らかくすることができそうです。

調理温度にかかわる調理テクニック

これを一般的な料理のテクニックと照らし合わせてみましょう。液性の話を同じく、何となく経験的にも分かりやすくなると思います。

ポイント

  • 煮崩れ防止に水からゆっくり煮る
    • 50~70℃付近の温度をゆっくり通過するので酵素がはたらき野菜を硬化させる。

「煮物をつくるときは水から煮る」とよく教わりますが、なるほどこれなら筋も通っていますね。

このように低い温度で加熱することを「予加熱」と呼びます。この「予加熱」、実は食品工業でも使われる方法なのだそうです。例えば、「缶詰製造」では100℃以上の高温で加熱して殺菌しますが、高温で調理すると柔らかい野菜は形が保てなくなり煮崩れしてしまいます。煮崩れしやすい野菜(カリフラワー、サヤ豆、サクランボ等)では、この予加熱調理を利用して野菜の硬さを調整することがあるそうです。

ペクチンとみりん(アルコール・糖)

そのほか、野菜の煮崩れに効果があると言われているのが、アルコール(エタノール)と糖の組み合わせです。

エタノールまたは糖単独では煮崩れ防止の効果は低いですが、両方を含む調味料が最も煮崩れ防止効果があると報告されています。

この両方を含む調味料が「みりん」です。煮汁の中にみりんを加えることで以下のようなことが起こっていると考えられます。

ポイント

  • エタノールによりペクチンが溶けだすことを抑える。
  • pHが低下し、ペクチンの分解を抑える。

エタノールは加熱すると揮発するため、加熱調理を継続すると効果が薄れてきますが、みりんによるpHの低下は持続するので、比較的長い時間の調理にも耐えられると考えられます。

また、アルコールと糖を含む調味料の組み合わせでも、みりんほどではないですが同じような効果が得られそうです。

まとめ

今回は野菜の変化を野菜の細胞を支える「ペクチン」と「加熱調理(特に煮る調理)」の側面から調査してみました。

調べてみた結果、野菜の柔らかくなりやすさに関しては、ペクチンの変化が重要な役割を持っているということがわかりました。

また、野菜の硬さは「煮汁の液性(酸性・アルカリ性)」と「野菜の温度」でコントロールできるという事がわかりました。

まず、液性を利用して野菜の硬さのコントロールをするときのポイントは以下の通りでした。

ポイント

  • pH4(弱酸性)で加熱すると硬さが保てる
  • pH5(弱酸性~アルカリ性)で加熱すると柔らくなる

また、温度変化を利用するときのポイントは以下の通りでした。

ポイント

  • 煮崩れを防ぐには50~70℃で予加熱する。
  • 柔らかくするには、50~70℃帯の通過を短時間にし、80℃以上に早めにする。

そのほか、特定の調味料がペクチンに作用することを利用して、煮崩れを防ぐことができます。

ポイント

  • 煮汁に「みりん」を加えると、ペクチンが溶けたり分解するのを抑えられる。
  • 同じようにアルコールと糖を含む調味料の組み合わせでも、みりんほどではないが同じような効果は得られる可能性がある。

もちろんすべての野菜にこの考え方が通用するわけではありませんし、その他の要素により柔らかくなったり硬くなったりもします。が、ペクチンの性質を理解することで煮物の柔らかさについてコントロールする方法は掴めるのではないかな、と思います。

参考文献

  • ペクチンとは~概要と種類を徹底解説」 食品開発ラボ
  • 「野菜・果実のペクチン質に関する調理科学的研究」渕上 倫子:日本家政学会誌  2014 年 65 巻 9 号 p. 479-491
  • 缶詰、びん詰、レトルト食品の作り方」日本缶詰びん詰レトルト食品協会
  • 「みりん」津田 淑江: 日本調理科学会誌 2009 年 42 巻 1 号 p. 44-48
  • 「本みりんのジャガイモ煮熟時における機能性成分におよぼす影響」木下 枝穂, 久保倉 寛子, 石田 丈博, 津田 淑江: 日本調理科学会誌 2007 年 40 巻 3 号 p. 146-155

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