調理科学

たけのこのえぐみ・アクを知る

春の味覚と言われて思いつくのが、独特の香りを持ち淡泊で歯ざわりもよい「たけのこ(筍)」ですよね。柔らかい部分はお吸い物や煮物に、食感がある部分はたけのこご飯や天ぷら、などいろんな料理に仕立てることができます。

ただ、たけのこには強烈なえぐみがあり、スーパー等に出回るものは基本的にはアク抜きをしないと食べられません。アク抜きをしても、このえぐみは残ることがあり、それが苦手な人もいると思います。

この記事では、たけのこのえぐみであるアクの成分についてまとめ、どのように対応していけばよいかを考えます。

たけのこのえぐみ(アク)の正体は?

たけのこのえぐみ(アク)として捉えられている成分は、「シュウ酸」や「ホモゲンチジン酸」とその配糖体とされています。このうち「ホモゲンチジン酸」が主なえぐみ成分と言われていますが、「シュウ酸」も「ホモゲンチジン酸」も単体でえぐみを感じさせるようです。

ホモゲンチジン酸」はあまり耳慣れない名前の成分ですが、たけのこ以外ではさといも、やつがしら等にも含まれているえぐみ成分です。

もうひとつの「シュウ酸」はほうれんそうのアクの成分で有名なので名前を聞いたことのある方も多いはず。シュウ酸は口内のカルシウムと結合して結晶化してイガイガした不快感を与えます。それだけでなく、ホモゲンチジン酸のえぐみを相乗的に強める働きを持っているとも言われています。厄介ですね。ちなみに、シュウ酸の摂取は尿路結石の原因となりうるので、アク抜きをしてなるべく摂取しないように心がけたいところです。

たけのこのえぐみは時間経過によりどのように変化するか?

たけのこのえぐみは時間経過により増大すると言われていて、収獲から2日前後がピークという情報が見受けられます。それぞれの成分についてどの程度変化があるのでしょうか。

ホモゲンチジン酸の変化

ホモゲンチジン酸については、たけのこに含まれる成分から生成されるので、時間経過とともに量が増加すると言われています。ホモゲンチジン酸については予備知識がないので少し調べてみました。

ホモゲンチジン酸は、たけのこの中にも大量に含まれる「チロシン」という成分から作られます。といっても、チロシンから直接作られるわけではなく、具体的には以下の過程のように中間的な合成を挟んで作られます[1]

  1. 「チロシン」から「4-ヒドロキシフェニルピルビン酸」が合成される。
  2. 「4-ヒドロキシフェニルピルビン酸」から「ホモゲンチジン酸」が合成される。

これらの合成には酵素が絡んでおり、1つめの合成は「チロシントランスアミナーゼ」、2つめの合成は「4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ」という酵素により進みます。

さて、このホモゲンチジン酸、時間経過によりどの程度増えるのか、また増加速度についても知りたいところ。ネット上で探してみたところ、少々古いですが「タケノコのホモゲンチジン酸含量に及ぼす収穫時期,重量,栽培地ならびに貯蔵の影響[2]」という文献を見つけました。この中で、収穫後に泥を除いた状態でポリエチレン袋詰にし室温で2時間放置した後、20℃下と1℃下で保存した場合のホモゲンチジン酸の量を測定しています。結果を以下のとおり引用します。

常温に近い20℃ではホモゲンチジン酸の量は2日後までは微増していますが、2日をピークに減少しています。1℃では収穫後から継続的に減少し、7日後に20℃での保存と同等程度になります。

たけのこのチロシンの量からみると、もっと増加スピードが速くて作られる量も多いのかなと思ったのですが…。もう少し情報が欲しいところですね。このあたりに詳しいたけのこ有識者の方、よろしければご連絡いただけると嬉しいです。

シュウ酸の変化

シュウ酸の量についても、時間経過とともに量が増加します。

こちらも少々古い文献[3]からのデータですが、たけのこ中のシュウ酸の量を時間経過とともに表したものを見てみると、2倍程度に増えていることが分かります。

たけのこ放置中のシュウ酸含量の消長
シュウ酸(mg%)
部位0時24時
先端43.8970.32
中部22.9042.28
根元18.0054.41

 

たけのこの部位でえぐみの強さは変わるか?

たけのこの部位でえぐみの強さは変わります。先端のほうがえぐみが強く、根元のほうが弱くなる傾向があると言われています。

これは、えぐみ成分である「ホモゲンチジン酸」の含量の違いから見てもそのように考えられます。「ホモゲンチジン酸」の含量[2]については以下の通りです。

たけのこのホモゲンチジン酸含量
部位たけのこ100gあたりの含量(μg)
先端115.9
中部71.9
根元31.1

先端部分は根元部分と比べると、2倍以上のえぐみ成分を含んでいます。

「シュウ酸」に関しては、前述の「たけのこ放置中のシュウ酸含量の消長[3]」で示したように、

先端>中部>根元

の順に多いという結果もあれば、

中部>根本>先端

の順にシュウ酸量が多いという結果もでています[4]。どちらにせよ、相当量のえぐみ成分があるので、かなり新鮮なものでない限り、部位によって生で食べたりアク抜きなしで食べるという選択をすることは難しいと思います。

先端はやわらかくてお吸い物や和え物にしたりすることが多いと思いますので、ちゃんとアク抜きをしてえぐみを取り除くか、えぐみ成分が大量に生成される前に酵素の働きを止める等して生成させないことが重要になってきますね。

たけのこの収穫時期によってえぐみの強さは変わるか?

一般的に太く重いものが出回る最盛期のものがえぐみを感じにくく美味しいものが多いと言われています。この説を確かめるために、えぐみ成分の量を収穫時期の面から見てみたいと思います。

調べてみたところ、ホモゲンチジン酸の含量を収穫時期で比較しているデータ[2]がありましたので以下に引用して紹介します。(シュウ酸の量については特にデータが見当たりませんでした。)

初物が出回って2週間くらいで含量がピークに達し、3週間くらいたったところで一気に減少しています。最盛期の重さや長さもよく立派なたけのこが出回る時期のものがえぐみが少なくなるという言説は、こちらのデータとも符合していますね。

産地によって出回る時期が異なるので、収穫時期でみるのはなかなか難しいところがありますが、大きくて長さもある立派なたけのこが出回る時期のものを狙って買うと、えぐみが少ないものに当たりやすいかもしれません。ただ、上記のデータの文献にも書かれていましたが、アク抜き後は感じるえぐみはそれほど差がなかったということなので、しっかり下処理ができればあまり気にしなくてもいいのかもしれません。

たけのこの大きさによってえぐみの強さは変わるか?

たけのこはサイズが大きく重くなるにつれて、えぐみ成分の含量が小さくなる傾向がみられます。

ホモゲンチジン酸の含量について同時期に収穫されたものを重量で比較しているデータ[2]を以下に引用して紹介します。(こちらも、シュウ酸の量については特にデータが見当たりませんでした。)

データを見ると確かに重量のある大きいたけのこのほうがホモゲンチジン酸の含量が少ない傾向があります。自分のイメージでは小さいものほどえぐみが少ないのかなと思っていたのですが、市中に出回るたけのこに関しては小さいもののほうがえぐみ成分が多く含まれているということがわかりました。

スーパーではよく小さめのものが複数本セットで売っていることがありますが、えぐいものを避けたい場合は大きめのものを選んでみてもいいかもしれません。

参考文献

  • [1] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%B1%E3%83%8E%E3%82%B3#%E3%82%A2%E3%82%AF%E6%8A%9C%E3%81%8D
  • [2] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshs1925/58/3/58_3_719/_pdf/-char/ja
  • [3] https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1968/23/3/23_263/_pdf
  • [4] https://ci.nii.ac.jp/naid/110004702174

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