キャベツから発せられる独特の臭いが気になること、時々ありますよね。感じ方は人により様々なようですが、一般的には「消毒のような臭い」だったり「カビのような臭い」だったり、ひどい時には「ドブのような臭い」と感じる場合もあるようです。
この独特の臭いですが、煮たり焼いたりしてもなかなか取れず、調理の仕方によっては食事全体に臭いが写ってしまったという経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回はこの「キャベツの独特の臭い」をなるべく抑えるにはどうしたらいいかを考えます。
キャベツの独特の臭いの素は何か?
さて、このように意外と厄介なキャベツの独特の臭い。臭いを制するために、まずは臭いの素について知るところからはじめていきたいと思います。
キャベツに限らないのですが、臭いは複数の臭いが絡み合ってできていますので、まずはこれを紐解いていきましょう。
キャベツの臭いは大きく分けると、以下2つが素になっていることが知られています。
- キャベツの成分由来の臭い
- 土壌や生産時の環境由来の臭い
それぞれの臭いの原因や性質が異なるので、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
2つの臭いの素
キャベツの成分由来の臭い
キャベツの独特の臭いの素、1つ目は「キャベツの成分由来の臭い」です。
キャベツには動物に食べられないように防御する化学的な機構が備わっていて、細胞が傷ついたりするとこの機構が働いて独特の臭い成分を発するようになります。これがキャベツの独特な臭いの原因となります。
具体的には以下のような仕組みでこの臭いは発生します。
- 細胞が傷つき、キャベツに含まれる「グルコシノレート類」が酵素と混じり合う。
- 「グルコシノレート類」が酵素反応を起こして「イソチオシアネート類」等の臭いの成分ができる。
- 「イソチオシアネート類」が熱や時間経過とともに変化し、「スルフィド類」などの含硫化合物ができる。
ここで登場した「イソチオシアネート類(主に、アリルイソチオシアネート)」と「スルフィド類(主に、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド等)」というものが、キャベツの独特な臭いを感じる物質です。
「イソチオシアネート類」はカラシやワサビのようなアブラナ科の植物特有の臭い。もう一つの「スルフィド類」はニンニクや玉ねぎの臭いに似た鼻をつく臭いです。特に後者の「スルフィド類」は人間には悪臭と感じられることが多いようです。
ちなみに、「グルコシノレート類」は苦味、「イソチオシアネート類」は辛味の成分としても知られていて、その他のアブラナ科の植物にも含まれています。
「イソチオシアネート類」は水溶性であり、また、熱などの調理加工で「スルフィド類」等に変化していくので、最終的にキャベツの中に残るのは「スルフィド類」です。こうした性質を鑑みると、悪臭と感じやすい「スルフィド類」を生成させないか、生成されたとしても除去または減少させることで、キャベツの臭いを軽減することができそうです。
豆知識
都市ガスは基本的には無臭なのでガス漏れに気づくようにわざと臭いをつけているという話はよく耳にしますが、このガスの臭いとしてつけられているのが、実はこの「スルフィド類」だったりします。だから玉ねぎっぽい臭いがするんですね。
土壌や生産時の環境由来の臭い
キャベツの独特の臭いの素、2つ目は「土壌や生産時の環境由来の臭い」です。
キャベツを生産する工程ではどうしても土が必要になってきますが、この土の中の微生物がつくりだす「メチルイソボルネール(2-メチルイソボルネオール)」という物質が2つ目の原因となります。
「メチルイソボルネール」は主に藍藻類(藍色細菌とも呼ばれる菌類)が作り出す物質で、カビの臭いやクスリ臭さを感じます。厄介なことに「メチルイソボルネール」は少量でも含まれていると悪臭と感じてしまいます。
これらは前述のキャベツ成分由来の臭い物質とは異なり、キャベツの生産の環境により付与されてしまう臭いなので、この臭いの強弱は運の要素もあるかと思います。
キャベツの臭いを抑える方法
この「キャベツの独特の臭い」の原因となる物質とその生成や付着の経路についてみてきました。
これらを考慮して臭いをなるべく抑える・取り除くにはどうしたらいいかを考えます。
キャベツの保管に気を付ける
1つ目は保管の問題です。
キャベツは前述の通り、物理的なダメージを受けることで細胞が壊れて嫌な臭いが出やすくなります。古いキャベツを使うと臭いが気になったという方も多いのではないでしょうか。なるべくキャベツにストレスを与えないように保管することで、臭いの発生をある程度抑えることができます。
また、キャベツは収穫後も自身の栄養分をつかって生長していきますが、その過程で臭いだけでなく食感や味も変化していくので、なるべくおいしい状態に保ちたいところです。
キャベツを含め、白菜やレタスの保管方法については以下にまとめています。
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キャベツを加熱しすぎない
2つ目の方法は「キャベツを加熱しすぎない」です。
前述の通り、キャベツは「イソチオシアネート類」が存在している状態で加熱するとこれが変化して「スルフィド類」などの含硫化合物ができます。これを防ぐことで臭いを抑えるというわけです。
ただし、料理によってはキャベツを煮こんだりする必要があるので、他の香りでマスキングするか、後述のクエン酸を加える方法等との組み合わせで対応する必要がありそうです。
キャベツを茹でるときは沸騰した湯で茹でる
3つ目の方法は特に茹でる調理のときの方法。「キャベツを茹でるときは沸騰した湯で茹でる」方法です。
キャベツの中に含まれる「グルコシノレート類」と酵素の反応で「イソチオシアネート類」が生成されるので、この酵素を熱湯で加熱することで不活性化し、生成される「イソチオシアネート類」やそこから更に生成される「スルフィド類」の量を抑えようという考え方です。
ポイントは沸騰した湯です。「グルコシノレート類」と反応する酵素は60度近辺で一番活性しやすくなることから、この温度帯での加熱を避け、不活性化する沸点に近い温度でさっと茹でます。
ただ、この茹で方にも問題があります。酵素が働かなければ「グルコシノレート類」はそのまま残るので、「グルコシノレート類」特有の苦みが出る可能性があります。
キャベツの外側の葉を避ける
4つ目は部位の取捨選択での対応方法。「キャベツの外側の葉を避ける」です。
土壌や外環境に近い外側の葉を使わないことで、カビ臭さ・クスリ臭さを低減しようという考え方です。
どの程度低減されるのかという具体的なデータはありませんが、個人的な感覚・経験では外側の葉に比べて内側の葉のほうが臭いが薄いように感じています。
臭いがダイレクトに伝わりやすい料理では外側の葉の使用を避け、他の香りでマスキングして炒め物などに使うという感じが良いかなと思います。
キャベツの芯を避ける
5つ目は、4つ目と同じく部位の取捨選択での対応方法。「キャベツの芯を避ける」です。
こちらも「外側の葉」の考え方と同じで、使用する部位によって軽減しようという考え方です。
収穫の時点で一番若くて成長の早い部分は真ん中の芯に近い部分。この部分は外側の葉に比べると「グルコシノレート類」と酵素の活性量が2倍高いと言われているので、この部分を避けます。
この部分を使用する場合は、他の方法や他の香りでマスキングするなどの工夫をして使用するのが良さそうです。
キャベツにクエン酸を加える
最後の方法は「キャベツにクエン酸を加える」という方法。
キャベツにクエン酸を加えると、臭い成分である「スルフィド類」が少なくなり、独特な臭いを感じにくくなるという研究結果があります。
調べてみた結果、pH.4.5以下相当のクエン酸を加えると効果があるという研究結果のほか、クエン酸水に千切りキャベツを浸す方法などの情報も見受けられました。
ただ、そのままクエン酸を加える方法では料理全体が酸っぱくなってしまうため、そういった料理には不向きかもしれません。
もう一つ懸念点としては、精製されたクエン酸を購入する…というのはなかなか抵抗があるかもしれません。家庭にある調味料で代替するならば、手に入りやすいレモンが良いかと思います。
レモンそのものの香りによって嫌な臭いがマスキングされる効果も期待できるので、千切りなどの生食を考える場合は有利に働くように思います。実際、とんかつ屋さんや定食屋でレモン水にキャベツを浸しておくお店もあるそうです。
まとめ
キャベツの独特の臭いの原因について触れ、その原因にもとづいて解決法を探りました。
まず、臭いの原因については以下の2つがありました。
- キャベツの成分由来の臭い
- 土壌や生産時の環境由来の臭い
次に、それぞれの原因に以下の物質が関係しているということに触れました。
- 「イソチオシアネート類」と「スルフィド類」
- 「メチルイソボルネール」
原因物質の特性等を考慮して、キャベツの独特の臭いの抑制・軽減のために以下の方法を調査・検討しました。
- キャベツの保管に気を付ける
- キャベツを加熱しすぎない
- キャベツを茹でるときは沸騰した湯で茹でる
- キャベツの外側の葉を避ける
- キャベツの芯を避ける
- キャベツにクエン酸を加える
と、いろいろ調査したり考えてみましたが、どの方法も一長一短あります。一緒に調理する食材との相性や、料理の味付けなどを考慮して使い分けしていきたいところですね。